2000年代前半、日本で韓国ドラマが一気に知られるようになったきっかけといえば、やはり『冬のソナタ』を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
私も当時の韓流ブームを振り返ると、最初に浮かぶのは「冬ソナ」という言葉です。
その『冬のソナタ』の後、日本で韓国ドラマのイメージをもう一段広げた作品が『宮廷女官チャングムの誓い』でした。
現代の恋愛ドラマではありません。舞台は朝鮮王朝時代の宮廷。料理、身分制度、医術、権力争いが絡む本格的な時代劇で、しかも全54話です。
今なら「54話か……」と少し身構えてしまいそうですが、当時の日本ではこれがかなりの人気になりました。後には東京ドームで作品単独のイベントまで開かれています。
恋愛ドラマから始まった韓流ブームの中で、韓国の長編時代劇まで広く見られるようになった。その流れを振り返ると、『チャングム』はやはり外せない作品です。
『宮廷女官チャングムの誓い』はどんなドラマ?
韓国での原題は『대장금(大長今/テジャングム)』。韓国では2003年9月から2004年3月までMBCで放送されました。
主人公はソ・ジャングム。幼い頃に両親を失ったジャングムが宮廷に入り、前半では宮廷料理を担う女官として、後半では医女として成長していきます。ジャングムを演じたのはイ・ヨンエです。
料理、宮廷内の争い、師弟関係、医術、恋愛。いろいろな要素が入っているうえに、とにかく次から次へと問題が起きます。
「また何か起きた」「今度はどう切り抜けるんだろう」。そんな気分で見ているうちに、次の回が気になってしまう。54話という長さなのに最後まで引っ張られるのは、こうした作りのうまさも大きかったと思います。
韓国では最高視聴率57.13%の大ヒット
『宮廷女官チャングムの誓い』は韓国でも記録的なヒット作でした。NHKエンタープライズの商品情報では、韓国での最高視聴率は57.13%と紹介されています。
今は配信サービスや動画サイトなど選択肢がいくらでもありますが、2003~2004年は今よりテレビの存在感がずっと大きかった時代です。それを差し引いても、50%を大きく超える数字には驚かされます。
人気は韓国だけで終わりませんでした。日本を含むアジア各地に広がり、『チャングム』は韓国歴史ドラマを代表する作品の一つになっていきます。
日本では2004年にNHK BS2で放送が始まった
日本では2004年10月から2005年10月までNHK BS2で放送されました。ちょうど『冬のソナタ』によって韓国ドラマへの関心が大きく高まっていた時期です。
ただ、『チャングム』は冬ソナとはかなり違います。現代の恋愛ドラマではなく時代劇。前半は宮廷料理、後半は医術が物語の大きな柱になります。
当時の韓国ドラマに「恋愛もの」の印象を持っていた人にとっては、かなり新鮮だったはずです。
初期韓流の流れを振り返るなら、『冬のソナタ』が日本で韓流ブームの原点となった背景と並べて見ると分かりやすいです。冬ソナが大きな入口を作り、その先に『チャングム』のようなまったく違うジャンルの作品が続きました。
料理のシーンは今でも記憶に残る
私が『チャングムの誓い』で今でもよく覚えているのは、やはり宮廷料理の場面です。
前半27話では宮廷の厨房、水剌間(スラッカン)が重要な舞台になります。食材を選び、下ごしらえをし、味を競う。料理そのものが事件の鍵になる回もあり、時代劇を見ていたはずなのに途中から料理番組のように感じることさえありました。

当時、日本で身近な韓国料理といえば、焼肉、キムチ、ビビンバなどのイメージが強かった時代です。そこへ、普段あまり見る機会のなかった色鮮やかな宮廷料理が次々と出てきました。
「韓国にはこんな料理もあるんだ」と、ドラマのストーリーとは別のところで興味を持った人もいたはずです。食文化そのものを物語の中にここまで深く入れ込んだ点も、『チャングム』ならではでした。
チャングムを応援したくなる理由
もちろん、珍しい料理が出てくるだけで54話も見続けられるわけではありません。結局いちばん大きいのは、主人公チャングムの存在だと思います。
チャングムは最初から何でもできる完璧な人物ではありません。失敗もするし、理不尽な目にも遭います。せっかく積み上げてきたものを失い、最初からやり直すような状況にも何度も追い込まれます。
それでも学ぶことをやめません。料理の知識を身につけ、後には医術を学び、少しずつ自分の道を切り開いていきます。
見ている側としては「今度こそうまくいってほしい」と思わされる。かなり王道の成長物語ですが、その分、国や時代が違っても入りやすかったのでしょう。
前半は料理、後半は医術。途中でドラマの顔が変わる
『チャングム』を初めて見ると驚くのが、途中から物語の雰囲気がかなり変わることです。
第1話から第27話までは宮廷料理が大きなテーマ。ところが第28話以降になると、薬草や病気、治療など東洋医学に関する描写が増えていきます。
「料理のドラマだったのに、今度は医女になるの?」と初見では思うかもしれません。
それでも別の作品を見ているようには感じにくい。料理人から医女へ立場が変わっても、チャングムが知識を学び、それを使って目の前の問題を解決していくという芯は同じだからです。
日本では「チャングム・ブーム」と呼びたくなるほど広がった
では、日本での人気は実際どのくらいだったのでしょうか。
分かりやすい出来事の一つが、主演イ・ヨンエの来日です。2006年5月、NHK総合でドラマが放送されていた時期にイ・ヨンエが日本で会見を開き、作品が国を越えて支持されていることへの喜びを語っています。
さらに驚くのが、その翌年です。
2007年8月11日、東京ドームで「宮廷女官チャングムの誓いFESTIVAL in Tokyo Dome」が開催され、約2万5000人が集まりました。
しかも出演したのはイ・ヨンエだけではありません。ミン・ジョンホ役のチ・ジニ、中宗役のイム・ホ、チェ尚宮役のキョン・ミリをはじめ、ドラマの主要キャストが大勢そろいました。ステージでは出演者のトークだけでなく、料理対決や音楽など、作品の世界をそのままイベントにしたような内容が組まれています。
韓国の時代劇ドラマ一作品のために、東京ドームへ2万5000人。2007年の出来事だと思うと、当時の熱量がかなり具体的に見えてきます。
その年の12月には、菊川怜がチャングムを演じる日本版の舞台『宮廷女官 チャングムの誓い』も日生劇場で上演されました。テレビで人気になった海外ドラマが、出演者を日本人に替えて舞台化されるところまで広がったわけです。
後年、オリコンが『チャングム』を「日本の韓国歴史ドラマブームの火付け役」と紹介しているのも、こうした広がりを考えると納得できます。
『冬のソナタ』とは違う韓流の入口になった
日本の初期韓流を語るとき、『冬のソナタ』の存在はやはり大きいです。ペ・ヨンジュンの人気も含め、「韓流」という言葉そのものを一気に身近にした作品でした。
ただ、その後も韓国ドラマ人気が続いたのは、冬ソナと似た作品だけが入ってきたからではありません。
『チャングム』は時代劇として見ても面白い。料理を見る楽しみもある。主人公の成長物語としても分かりやすく、後半には医療ドラマのような面白さまで出てきます。
「韓国ドラマは恋愛ものばかり」と思っていた人に、別の扉を開いた作品だったのかもしれません。
20年以上前の作品が2026年にも放送された
『宮廷女官チャングムの誓い』が韓国で放送されたのは2003~2004年。すでに20年以上前の作品です。
それでも日本では再放送が続いています。2026年にはBS日テレで1月から放送され、3月5日に最終話を放送。続いてBSフジでも5月15日から7月29日まで全54話が放送されました。
20年以上前の海外ドラマ、それも全54話の歴史劇が今も編成される。これだけでも、一時の話題だけで終わった作品ではなかったことが分かります。
最近の配信ドラマに慣れていると、映像や演出、テンポにはさすがに時代を感じるかもしれません。それでも、何度失敗しても立ち上がる主人公、分かりやすいライバル、次々と降りかかる問題、少しずつ積み上がっていく成長という物語の面白さは古びていません。
今振り返ると、韓流が広がっていった時代が見える
今では日本で韓国ドラマを見ること自体、特別なことではなくなりました。配信サービスを開けば新旧の韓国作品が並び、韓国で始まった新作がすぐ日本でも話題になります。
でも2000年代前半は、まだ今とはかなり違いました。
『冬のソナタ』で韓国ドラマを知り、その後『チャングム』を見て、「韓国にはこんなドラマもあるんだ」と感じた人も多かったはずです。
そう考えると、『宮廷女官チャングムの誓い』は単なる昔の人気ドラマではありません。日本で韓国ドラマのジャンルそのものを広げ、その後の韓国時代劇人気につながる入口になった作品の一つでした。
まとめ
『宮廷女官チャングムの誓い』は、宮廷料理から医術までを描きながら、チャングムの成長を54話にわたって追った韓国時代劇です。
韓国で最高視聴率57.13%を記録し、日本では2004年からNHK BS2で放送。やがて主演イ・ヨンエの来日、東京ドームに2万5000人を集めたイベント、日本版の舞台化へと人気が広がりました。
当時見ていた人なら、「チャングム」という名前を聞くだけで宮廷の厨房や料理の場面が浮かぶかもしれません。20年以上たっても再放送され、そんな記憶を呼び起こす。それだけ長く残った作品だったのだと思います。
