韓国人でも苦手?全羅道名物「ホンオ(홍어)」とは|強烈な匂いの理由と食べ方
ホンオ(홍어)は、韓国で食べられるエイの仲間です。強烈な匂いで知られる熟成ホンオ(サキン・ホンオ)は、全羅道の食文化と結びついています。ただし、韓国人の間でも好みが分かれる料理です。
ホンオはエイの仲間で、全羅道、とくに全羅南道の食文化と深く結びついてきました。なかでも有名なのが、独特の刺激臭を持つ삭힌 홍어(サキン・ホンオ/熟成させたホンオ)です。鼻にツンと抜ける刺激があり、初めて口にすると驚く人も少なくありません。
ただし、ホンオは単なる「臭い珍味」ではありません。黒山島(흑산도)や羅州・栄山浦(영산포)にまつわる歴史、発酵の仕組み、豚肉や熟成キムチとの食べ方まで知ると、全羅道らしい食文化が見えてきます。私がこの料理を紹介するときに大切だと思うのは、匂いの強さだけを話題にするのではなく、なぜこの地域で食べ継がれてきたのかも伝えることです。好みに合うかどうかとは別に、背景を知ることで料理の見え方が変わると感じます。
目次
ホンオ(홍어)とは?「発酵エイ」とは少し違う
홍어(ホンオ)は、韓国で食用にされるエイ類を指す言葉です。日本では「韓国の発酵エイ」と紹介されることがありますが、ホンオそのものが必ず発酵しているわけではありません。
強い匂いで知られているのは、ホンオを一定期間熟成させた삭힌 홍어です。韓国語の「삭히다」には、食材を発酵させたり熟成させたりする意味があります。
- 홍어(ホンオ):ホンオという魚そのもの
- 삭힌 홍어(サキン・ホンオ):熟成させたホンオ
- 홍어회(ホンオフェ):薄く切って食べるホンオ
- 홍어삼합(ホンオサマプ):ホンオ・豚肉・熟成キムチを合わせる食べ方
日本のテレビ番組や旅行番組で「強烈な匂いの韓国料理」として紹介されるホンオは、多くの場合、この熟成タイプです。

なぜ全羅道で熟成ホンオが有名になった?
ホンオの歴史を語るときによく登場するのが、全羅南道・新安郡の黒山島(흑산도/フクサンド)と、羅州市の栄山浦(영산포/ヨンサンポ)です。
黒山島はホンオの産地として知られる
黒山島周辺は、古くからホンオの産地として知られてきました。また、新鮮なホンオも食べられており、「黒山島=熟成ホンオだけ」というわけではありません。
栄山浦まで運ぶ途中で熟成したという説
熟成ホンオの由来には複数の説明があります。そのなかでよく知られているのが、黒山島周辺で獲れたホンオを船で内陸の栄山浦へ運ぶ途中、時間の経過によって独特の熟成が進み、それを食べる習慣が定着したという説です。韓国観光公社の紹介記事でも、黒山島から栄山浦へ運ぶ水路とホンオの地域文化が取り上げられています。
冷蔵設備がない時代、島から内陸へ水産物を運ぶには時間がかかりました。そうした流通の歴史とホンオの性質が結びつき、栄山浦は熟成ホンオで知られる場所になったと伝えられています。現在も栄山浦にはホンオ料理店や加工関連の店が集まる一帯があります。
なぜあんなに強い匂いがするの?
熟成ホンオの匂いは、よく「アンモニアのよう」「鼻の奥までツンとくる」と表現されます。この刺激には、エイ類の体内に多く含まれる尿素が関係しています。
エイやサメなどの軟骨魚類は、海水中で体内の浸透圧を保つために尿素を利用します。ホンオを熟成させる過程では、その尿素が分解されてアンモニアが生じ、独特の刺激臭につながります。熟成が進むとpHが上がるため、ホンオはアルカリ性の発酵・熟成食品として研究されてきました。
熟成食品として作られるものと、家庭で魚を放置して傷ませたものは別です。匂いの強さだけで安全性を判断したり、自己流で熟成を再現したりしないでください。
匂いはどれくらい強い?韓国人でも苦手な人はいる
しっかり熟成したホンオは、かなり個性があります。匂いを嗅いだ瞬間だけでなく、食べ進めるうちに刺激が鼻に抜けるように感じることもあります。
納豆やブルーチーズのような「香りの強い食べ物」とも少し違い、ホンオはアンモニア由来のツンとした刺激が加わるのが特徴です。熟成度や切り方、食べる人の感覚によって印象は変わります。
韓国人なら誰でも平気というわけではありません。全羅道ではなじみのある料理ですが、韓国のどこでも日常的に食べられているわけではなく、「ホンオは食べられる?」と好みが話題になることもあります。
代表的な食べ方は「ホンオ三合」
ホンオの代表的な食べ方が、홍어삼합(ホンオサマプ/ホンオ三合)です。「三合」の名のとおり、3つの味を重ねて食べます。
- 삭힌 홍어:熟成ホンオの刺激と弾力
- 돼지고기 수육:ゆで豚の脂とコク
- 묵은지:よく熟成したキムチの酸味と旨味
熟成キムチ、豚肉、ホンオを一緒に口に運ぶと、刺激やまろやかさ、酸味が一度に広がります。ホンオ単体では刺激が強いと感じる人でも、三合なら印象が変わることがあります。
初めてなら、匂いを我慢して食べるより、少量を三合で試すのがよさそうです。豚肉と熟成キムチを合わせることで、単体とは違う味わいを楽しめます。それでも口に合わなければ、無理に食べ続ける必要はありません。郷土料理を尊重することと、無理に好きになることは別だと考えます。
マッコリと合わせる「ホンタク」
ホンオとよく一緒に楽しまれるのが、막걸리(マッコリ)です。その組み合わせは、홍탁(ホンタク)と呼ばれます。ホンオの「홍」と、濁酒を指す「탁」を合わせた名前です。
さらに、三合と濁酒を合わせる食べ方は「홍탁삼합(ホンタクサマプ)」とも呼ばれます。ホンオ、豚肉、熟成キムチ、濁酒という組み合わせは、全羅道の食文化を象徴する楽しみ方のひとつです。
全羅道では珍味ではなく、地域の食文化
ホンオは全国的には個性的な料理として知られていますが、全羅道では宴席や人が集まる場で供されてきた地域料理でもあります。とくに熟成ホンオは、酒や豚肉、キムチと組み合わせながら食べる文化とともに受け継がれてきました。
「匂いの強い魚」という印象だけで片づけず、産地や流通、食べ合わせまで含めて見ると、ホンオが地域の暮らしと結びついた料理であることが分かります。
ホンオを食べるならどこ?
歴史や食文化も知りたいなら、全羅南道の羅州・栄山浦を訪れるのが代表的な選択肢です。熟成ホンオで知られ、周辺には専門店などが集まっています。
- 黒山島(흑산도):ホンオの産地として有名
- 羅州・栄山浦(나주 영산포):熟成ホンオの歴史でよく知られる
- 木浦(목포):全羅南道の魚介料理とともにホンオを味わえる
- 光州(광주):南道料理を扱う店でホンオ三合を見かけることがある
店によって熟成度や提供スタイルは違います。旅行中に挑戦するなら、メニューで「삭힌 홍어」「홍어삼합」などの表記を確認すると探しやすいでしょう。
初めてホンオを食べるときのコツ
- いきなり大きな一切れではなく、少量から試す
- ホンオ単体より、豚肉と熟成キムチを合わせた三合で食べる
- 店で熟成度を選べる場合は、比較的穏やかなものがあるか聞く
- 匂いだけでなく、身の弾力や歯ごたえにも注目する
- 苦手だと感じたら無理をしない
ホンオは「食べられるかどうか」を競う料理ではありません。合う人にはクセになる一方、苦手な人にはかなり強い料理です。小さく試して、自分の好みに合うか確かめるくらいがちょうどいいでしょう。
まとめ|強烈な匂いの先にある、全羅道の郷土の味
ホンオは、韓国人でも好き嫌いが分かれるほど個性の強い料理です。とくに熟成ホンオはアンモニア由来の刺激があり、初めてなら驚くかもしれません。
一方で、黒山島と栄山浦をめぐる歴史、熟成という保存の知恵、豚肉と熟成キムチを合わせる三合などを知ると、単なる「臭い食べ物」とは違う姿が見えてきます。
全羅道の郷土料理に興味があるなら、現地で少量から試してみるのもよいでしょう。この料理の魅力は、「誰もが好きになる味」であることより、産地の歴史や三合の食べ方を知り、好みが分かれる理由まで考えられるところにあると思います。好きになるか、やはり苦手だと感じるか。そのどちらの反応も含めて、個性のはっきりした料理です。
参考リンク
- 韓国観光公社「K-ローカル美食旅行33選|苦尽甘来の末に味わう珍味、ホンオ」
- 韓国観光公社「栄山浦ホンオ通り」
- 韓国観光公社「영산강 뱃길이 만들어 낸 홍어」
- Food Microbiology「Prokaryotic community composition in alkaline-fermented skate (Raja pulchra)」
- Journal of Food Science and Technology「Protein degradation and texture properties of skate (Raja kenojei) muscle during fermentation」
