韓国料理と聞くと、キムチやサムギョプサル、チゲを思い浮かべる人が多いかもしれません。ところが韓国には、韓国人でも好き嫌いがはっきり分かれる料理があります。それが홍어(ホンオ)です。

ホンオはエイの仲間で、全羅道、とくに全羅南道の食文化と深く結びついてきました。なかでも有名なのが、独特の刺激臭を持つ삭힌 홍어(サキン・ホンオ/熟成させたホンオ)です。鼻の奥にツンと抜けるような匂いがあり、初めて口にすると驚く人も少なくありません。

ただし、ホンオは単なる「臭い珍味」ではありません。黒山島(흑산도)や羅州・栄山浦(영산포)にまつわる歴史、発酵の仕組み、そして豚肉や熟成キムチと合わせる食べ方まで知ると、全羅道らしい食文化が見えてきます。

ホンオ(홍어)とは?「発酵エイ」とは少し違う

홍어(ホンオ)は、韓国で食用にされるエイ類を指す言葉です。日本では「韓国の発酵エイ」と紹介されることがありますが、ホンオそのものが必ず発酵しているわけではありません。

強い匂いで知られているのは、ホンオを一定期間熟成させた삭힌 홍어です。韓国語の「삭히다」には、食材を発酵させたり熟成させたりする意味があります。

  • 홍어(ホンオ):ホンオという魚そのもの
  • 삭힌 홍어(サキン・ホンオ):熟成させたホンオ
  • 홍어회(ホンオフェ):薄く切って食べるホンオ
  • 홍어삼합(ホンオサマプ):ホンオ・豚肉・熟成キムチを合わせる食べ方

日本のテレビ番組や旅行番組で「強烈な匂いの韓国料理」として紹介されるホンオは、多くの場合、この熟成タイプです。

韓国の熟成ホンオ(発酵・熟成させたエイ料理)
熟成ホンオ。出典:Wikimedia Commons / 자유로、CC BY 2.0 KR

なぜ全羅道で熟成ホンオが有名になった?

ホンオの歴史を語るときによく登場するのが、全羅南道・新安郡の黒山島(흑산도/フクサンド)と、羅州市の栄山浦(영산포/ヨンサンポ)です。

黒山島はホンオの産地として知られる

黒山島周辺は、古くからホンオの産地として知られてきました。産地では新鮮なホンオも食べられており、「黒山島=熟成ホンオだけ」というわけではありません。

栄山浦まで運ぶ途中で熟成したという説

熟成ホンオの由来には複数の説明があります。そのなかでよく知られているのが、黒山島周辺で獲れたホンオを船で内陸の栄山浦へ運ぶ途中、時間の経過によって独特の熟成が進み、それを食べる習慣が定着したという説です。

冷蔵設備がない時代、島から内陸へ水産物を運ぶには時間がかかりました。そうした流通の歴史とホンオの性質が結びつき、栄山浦は熟成ホンオで知られる場所になったと伝えられています。現在も栄山浦にはホンオ料理店や加工関連の店が集まる一帯があります。

なぜあんなに強い匂いがするの?

熟成ホンオの匂いは、よく「アンモニアのよう」「鼻の奥までツンとくる」と表現されます。この刺激には、エイ類が体内に多く持つ尿素が関係しています。

エイやサメなどの軟骨魚類は、海水中で体内の浸透圧を保つために尿素を利用します。ホンオを熟成させる過程では、その尿素が分解されてアンモニアが生じ、独特の刺激臭につながります。熟成が進むとpHが上がるため、ホンオはアルカリ性の発酵・熟成食品として研究されてきました。

つまり、市販・提供されている熟成ホンオは、単に魚を放置して腐らせたものではありません。管理された熟成によって、あの特有の香りと刺激が生まれます。

匂いはどれくらい強い?韓国人でも苦手な人はいる

しっかり熟成したホンオは、かなり個性があります。匂いを嗅いだ瞬間だけでなく、噛んでいるうちに鼻の奥へ刺激が抜けるように感じることもあります。

納豆やブルーチーズのような「香りの強い食べ物」とも少し違い、ホンオはアンモニア由来のツンとした刺激が加わるのが特徴です。熟成度や切り方、食べる人の感覚によって印象は変わります。

そして、韓国人なら誰でも平気というわけでもありません。全羅道ではなじみの深い料理ですが、日常的にホンオを食べない地域の人も多く、韓国人同士でも「홍어 먹을 수 있어?(ホンオ食べられる?)」という話題になるほど好みが分かれます。

代表的な食べ方は「ホンオ三合」

ホンオの代表的な食べ方が、홍어삼합(ホンオサマプ/ホンオ三合)です。「三合」の名のとおり、3つの味を重ねて食べます。

  • 삭힌 홍어:熟成ホンオの刺激と弾力
  • 돼지고기 수육:ゆで豚の脂とコク
  • 묵은지:よく熟成したキムチの酸味と旨味

熟成キムチに豚肉とホンオを重ねて一緒に食べると、ホンオの刺激に豚肉のまろやかさとキムチの酸味が重なります。ホンオ単体では刺激が強いと感じる人でも、三合なら印象が変わることがあります。

初挑戦なら、店で熟成度を選べるか確認し、少量を三合で試すのが食べやすい方法です。

マッコリと合わせる「ホンタク」

ホンオと一緒に語られることが多い酒が、막걸리(マッコリ)です。ホンオの「홍」と、濁酒を指す「탁」を合わせて홍탁(ホンタク)と呼ばれます。

ホンオ三合と濁酒を組み合わせた食べ方を「홍탁삼합(ホンタクサマプ)」と呼ぶこともあります。ホンオ、豚肉、熟成キムチ、濁酒という組み合わせは、全羅道の食文化を象徴する楽しみ方のひとつです。

全羅道では珍味ではなく、地域の食文化

ホンオは全国的には個性的な料理として知られていますが、全羅道では宴席や人が集まる場で供されてきた地域料理でもあります。とくに熟成ホンオは、酒や豚肉、キムチと組み合わせながら食べる文化とともに受け継がれてきました。

「匂いが強い魚」だけで終わらせず、産地と流通、保存の知恵、食べ合わせまで含めて見ると、ホンオが地域の暮らしと結びついた料理であることが分かります。

ホンオを食べるならどこ?

歴史と食文化まで含めて味わうなら、全羅南道の羅州・栄山浦が代表的です。熟成ホンオで知られ、周辺にはホンオ料理店や関連店があります。

  • 黒山島(흑산도):ホンオの産地として有名
  • 羅州・栄山浦(나주 영산포):熟成ホンオの歴史でよく知られる
  • 木浦(목포):全羅南道の魚介料理とともにホンオを味わえる
  • 光州(광주):南道料理を扱う店でホンオ三合を見かけることがある

店によって熟成度や提供スタイルは違います。旅行中に挑戦するなら、メニューで「삭힌 홍어」「홍어삼합」などの表記を確認すると探しやすいでしょう。

初めてホンオを食べるときのコツ

  • いきなり大きな一切れではなく、少量から試す
  • ホンオ単体より、豚肉と熟成キムチを合わせた三合で食べる
  • 店で熟成度を選べる場合は、比較的穏やかなものがあるか聞く
  • 匂いだけでなく、身の弾力や食感も意識してみる
  • 苦手だと感じたら無理をしない

ホンオは「食べられるかどうか」を競う料理ではありません。合う人にはクセになる一方、苦手な人にはかなり強い料理です。小さく試して、自分の好みに合うか確かめるくらいがちょうどいいでしょう。

よくある質問

ホンオは腐った魚ですか?

市販・飲食店で提供される熟成ホンオは、単に腐敗させた魚ではありません。エイ類に含まれる尿素が熟成過程で分解され、アンモニアが生じることで独特の匂いと刺激が生まれます。

韓国人はみんなホンオが好きですか?

いいえ。韓国人でも苦手な人はいます。地域や家庭によって食べる機会に差があり、とくに熟成が進んだホンオは好みが大きく分かれます。

ホンオ三合とは何ですか?

熟成ホンオ、ゆで豚、熟成キムチを一緒に食べる組み合わせです。ホンオを代表する食べ方のひとつで、刺激、脂のコク、酸味をまとめて味わえます。

ホンオは辛いですか?

唐辛子の辛さとは別物です。熟成ホンオは、アンモニア由来のツンとした刺激を鼻や口の中に感じます。「辛い」というより「鼻に抜ける刺激が強い」と考えると近いでしょう。

まとめ|強烈な匂いの先にある、全羅道の郷土の味

ホンオは、韓国人でも好き嫌いが分かれるほど個性の強い料理です。とくに熟成ホンオはアンモニア由来の刺激があり、初めてなら驚くかもしれません。

一方で、黒山島と栄山浦をめぐる歴史、熟成という保存の知恵、豚肉と熟成キムチを合わせる三合などを知ると、単なる「臭い食べ物」とは違う姿が見えてきます。

全羅道の郷土料理に興味があるなら、現地で少量から試してみるのもひとつ。好きになるか、やはり苦手だと感じるか。そのはっきりした個性も、ホンオならではです。

参考にした主な資料